持続可能な宇宙環境の構築を目指し、スペースデブリ(宇宙ゴミ)の除去を含む軌道上サービスに取り組むアストロスケールでは、2021年2月より「人と地球と宇宙を持続可能にする」ことを目標に掲げた「#SpaceSustainability(スペースサステナビリティ)」という活動を行っています。このインタビュー企画では、「人」「地球」「宇宙」の持続可能性に取り組むさまざまな企業や団体を紹介します。

第1回目となる今回は、有翼再使用ロケットの開発に取り組んでいる株式会社SPACE WALKER(スペースウォーカー)。同社 代表取締役CEOを務める眞鍋顕秀氏に、SPACE WALKERの事業や方向性、そしてスペースサステナビリティへの取り組みについて聞きました。

──SPACE WALKERとはどのような企業なのですか?

SPACE WALKERは、2017年のクリスマスである12月25日に設立した企業で、設立以来有翼再使用ロケットであるスペースプレーンの設計・開発を進めています。

当社の共同創設者で取締役CTOを務める米本は、1980年代より国家プロジェクトだった有翼飛翔体「HIMES(ハイムス)」や宇宙往還機「HOPE-X(ホープ・エックス)」などの研究開発に携わり、現在も東京理科大学で嘱託教授として研究を続けるなど、40年近く有翼再使用ロケットの開発に取り組んでいる人物です。その経験をベースに、SPACE WALKERでは今後有翼ロケットを使った宇宙輸送サービスの実現を目指しています。

──真鍋さんはSPACE WALKERの創業前、公認会計士として会計事務所を経営していらっしゃったとのことですが、どういったいきさつで宇宙ビジネスに関わることになったのでしょう?

共同創設者の米本と出会ったのは2016年の秋でした。米本は、2015年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)と大学との共同研究で行なった小型ロケット実験機の打ち上げおよび回収に成功し、商業化を目指して会社設立や資金調達に向け動いていました。その流れで私の経営していた会計事務所に話が来たんです。

当時は、アメリカでイーロン・マスク氏が設立したSpaceXがロケットの再使用に成功し、世界中にそのニュースが駆け巡っていた時期でした。そのタイミングでの出会いに運命的なものを感じ、この分野の状況を自分でも調べてみました。その中で、再使用ロケットに今後勝算があると考え、2017年に共同でSPACE WALKERを立ち上げることになりました。

──SPACE WALKERは2021年3月に「サステナブル宇宙開発宣言」を発表されています。この宣言はどういったものなのでしょうか。

これは、「地球と宇宙の相互連携による持続可能な社会」の構築を目指して、宇宙開発を進めると宣言したものです。これまでの宇宙開発は、多くの国で国家が主導して、安全保障や軍事力誇示などのために進められていました。それが最近では、SpaceXをはじめとする民間企業が宇宙開発の中心になりつつあります。宇宙開発の目的は、宇宙だけでなく地球の繁栄にもつなげることです。つまり、宇宙と地球双方の持続可能性をしっかり捉えなくてはならないのです。

これまでのロケットは使い捨てが主流でしたが、今後民間企業がロケットを活発に使用する時代になると、毎回打ち上げるたびにロケットの一部を海や宇宙空間に投棄することは考えられません。宇宙開発を持続可能なものとし、今後、ロケットをモビリティと呼べるほどの輸送インフラにまで発展させるには、再使用可能なロケットが必要なのです。そこでサステナブル宇宙開発宣言を発表しました。

──その後6月に発表された「ECO ROCKET(エコロケット)」も、サステナブル宇宙開発宣言の一環なのでしょうか。

はい。ECO ROCKETは、持続可能な宇宙を実現するという考えの下、6月5日の世界環境デーに合わせて発表しました。ECO ROCKETの定義としては、再使用ロケットであること、そしてクリーン燃料を使用することです。ロケットを開発する企業は世界に100社以上あるとされていますが、現時点でこの2つの要件を満たすようなロケットを開発しているのは、SpaceXと、ジェフ・ベゾス氏が設立したBlue Origin、そして当社のみです。

有翼再使用ロケットは、創業前より米本が長年開発を続けてきたものです。先ほど述べた通り、宇宙開発を持続可能なものとするには、ロケットを再使用可能にし、海に何も捨てない環境にやさしいものにする必要があります。それがECO ROCKETの重要な要素となるのです。

燃料については、飛行機などでよく使われるケロシンが温室効果ガスを排出するとして問題視されていることが背景にあります。SPACE WALKERのロケットは、カーボンニュートラルとされるクリーンエネルギーのメタンエンジンを利用しています。とくに当社が使用するメタンエンジンは、他の異物が混入してエンジンが腐食し再使用性が低下することを防ぐため、一般で流通している液化天然ガスより純度の高いメタンを採用しています。そこでパートナー企業と連携し、牛糞など家畜の排泄物を処理する過程で出るメタンガスを液化するようなバイオ燃料の開発も手掛けています。これにより、酪農家が処理に困っている家畜の排泄物の処理問題も同時に解決できればと考えています。

──SPACE WALKERは、アストロスケールの提唱するスペースサステナビリティの理念に賛同されています。その背景を教えてください。

もともとSPACE WALKERでは、使い捨てロケットで進められていた宇宙開発には問題があると感じていました。スペースサステナビリティに賛同したのも、同じ考えだと感じたためです。

これは、宇宙と地球の両面を意識した取り組みだと理解しています。つまり宇宙だけでなく、地球のサステナビリティも同時に考えようという意味が込められていると捉えています。アストロスケールはスペースデブリに課題を見い出し、宇宙側のゴミに対応しようとしている一方で、SPACE WALKERは地球側の環境問題に注目しています。宇宙開発を加速させるために、2社が協力することで、より強力に宇宙と地球の相互の持続可能性に取り組むことができます。

SPACE WALKERがサステナブル宇宙開発宣言を発表したのも、スペースサステナビリティは1社だけで取り組むものではないと考えたためです。この理念は非常に重要で、宇宙開発に携わる国や事業者すべてが考えるべきことです。

──宇宙以外でサステナビリティに取り組んでいることはありますか?

SPACE WALKERでは、2020年7月にSDGs(持続可能な開発目標)を重要な経営課題と位置付けることを発表しています。事業活動を通じて社会課題を解決し、企業価値の向上と持続的な社会の実現を目指そうという考えです。

ただ、サステナビリティへの取り組みが特別だと考えられている間は、それが当たり前にはならないでしょう。例えば、各個人がゴミを捨てる時に少し意識するだけで世界は変わっていくはずです。小さな行動の積み重ねでサステナビリティが当たり前になると、そのような言葉も使わなくなり、本当の持続可能な社会が実現すると思います。

──SPACE WALKERの今後の展望を教えてください。

当社の最終ゴールは有人宇宙輸送です。これは設立当初から変わっていません。そのために、ECO ROCKETで人が操縦しなくても最適航路を計算しながら飛ぶオートパイロットを実現しようとしています。その誘導制御システムの実績を積むため、まずは無人ミッションから取り組みます。この領域では、小型衛星を宇宙空間に打ち上げるサービスを視野に入れています。

いままでの道のりにおいて、2020年は新型コロナウイルスの感染拡大の中、資金調達を含む事業計画を大幅に見直す必要に迫られました。そこで、ロケット開発における一部の技術をカーブアウトさせ、自ら資金を稼ぎ出しつつロケット開発を進めようと考えるようになりました。

SPACE WALKERでは、さまざまなロケット技術の中でも、燃料タンクというキーコンポーネント(重要な搭載部品)を自社開発しています。自社ロケットに搭載するために開発したものですが、現在地上でもそのタンクを提供できないかと考えています。菅義偉内閣総理大臣が2020年10月、2050年までのカーボンニュートラルの実現を宣言し、脱炭素化に向けた水素社会の加速が大きな命題となっていますが、当社のタンクは燃料電池自動車への搭載や、ガソリンスタンドに相当する水素ステーションの水素ガス貯蔵タンクとしても利用可能です。そこで、このタンクの製造販売の事業化を短期間で実現しようと取り組んでいます。

その先にあるのが有人宇宙輸送ですが、2021年5月には文部科学省が再使用型ロケットの開発への取り組みを発表するなど、これまでの使い捨てロケットから大きく方針転換しました。同時に、宇宙空間を経由した地上の高速2地点間輸送サービスで、例えば東京からニューヨーク間を約40分で移動するといった、Point to Point輸送のプロジェクトを遂行する民間事業者を後押しすることも発表しています。これは当社にとっても大きな追い風になると考えています。

ただし、再使用ロケットのメリットは、コスト削減や打ち上げ頻度の向上がメインではないということを認識しておく必要があります。コストや打ち上げ頻度は、使い捨てロケットであっても大量生産・大量打上を行う事である程度解決できる部分もあると思いますが、環境問題だけは解決できません。再使用ロケットの一番の社会的意義は環境問題だということを、理解してもらいたいと思います。


設立当初からサステナブルな宇宙開発を目指し事業を展開してきたSPACE WALKER。使い捨てロケットが持続可能でないことは明らかですが、これまでは最新のロケット開発ばかりが注目され、その持続可能性についてはあまり検討されていませんでした。民間企業による宇宙産業が発展し、SPACE WALKERの目指す宇宙輸送サービスが実現するためにも、スペースサステナビリティについて真剣に取り組む時期が来ています。


プロフィール:眞鍋顕秀氏
2003年慶應義塾大学経済学部卒。公認会計士。
大手監査法人へ入社後、主に監査業務、IPO・M&A支援に従事。2012年に独立開業し、大手企業の経営コンサルから個人の開業・法人設立の支援まで幅広い企業サポートを行う。2017年に株式会社SPACE WALKERを共同創業。日本初の有人宇宙飛行の実現を目指し、大手重工メーカー等との技術アライアンスをベースに有翼再使用ロケットの開発を進める。

SPACE WALKERについて
社名:  株式会社SPACE WALKER
設立:  2017年12月25日
代表:  代表取締役CEO 眞鍋 顕秀
事業内容:有翼再使用ロケット(スペースプレーン)の設計開発、コンポーネントの開発・製造・販売、宇宙関連イベントの企画・提案、その他関連事業