持続可能な宇宙環境の構築を目指し、スペースデブリ(宇宙ごみ)の除去を含む軌道上サービスに取り組むアストロスケールでは、2021年2月より「人と地球と宇宙を持続可能にする」ことを目標に掲げた「#SpaceSustainability(スペースサステナビリティ)」という活動を行っています。このインタビュー企画では、「人」「地球」「宇宙」の持続可能性に取り組むさまざまな企業や団体を紹介します。
今回話を聞いたのは、ネスレ日本株式会社 飲料事業本部 レギュラーソリュブルコーヒー&RTDビジネス部 ユニットマネジャーの吉永祐太氏。吉永氏は、ネスレが宇宙航空研究開発機構(JAXA)および漫画・アニメ作品の『宇宙兄弟』と共同で取り組んでいる「#NescafeOurPlanetプロジェクト」を立ち上げた人物です。長期的な目標を「地球のために」と定めている同プロジェクトを中心に、ネスレのサステナビリティに関する取り組みを聞きました。
──ネスレといえば誰もが知る世界最大の食品飲料企業ですが、SDGs(持続可能な開発目標)についても真摯に取り組んでいるそうですね。まずは企業全体の取り組みについて教えてください。
ネスレは、創業者のアンリ・ネスレが、乳幼児の栄養不足を解決したいとの思いから乳児用乳製品を開発したことが事業の始まりです。社会問題を解決することが創業の原点だったこともあり、今でもCSR(企業の社会的責任、Corporate Social Responsibilityの略)だけでなく、より深く踏み込んだCSV(共有価値の創造、Creating Shared Valueの略)を意識し、社会問題の解決に密接に結びついた事業展開を行なっています。
ネスレでは、ビジョンや企業理念よりも上位に来る概念として、「パーパス(Purpose:存在意義)」を掲げています。そのパーパスは、「食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高めていきます」というものです。このパーパスを達成するために、「個人と家族のために」「コミュニティのために」「地球のために」という3つの分野で事業を通じた課題解決に取り組んでいます。
この3分野にはそれぞれ2030年に向けた長期的な目標があります。「個人と家族のために」の分野では、5000万人の子どもたちがさらに健康な生活を送れるよう支援すること。「コミュニティのために」の分野では、ネスレの事業活動に直結するコミュティに暮らす3000万人の生活を改善すること。そして「地球のために」の分野では、ネスレの事業活動における環境負荷をゼロにすることです。
これらの長期的な目標に取り組むことで、SDGsの達成にも貢献したいと考えています。
──その中で誕生したのが、家族で楽しみながら地球の環境変動について学ぶ「#NescafeOurPlanetプロジェクト」ですね。このプロジェクトは吉永さんが立ち上げたとのことですが、きっかけは何だったのでしょう?
当社では、ブランドとしてのコミュニケーションを検討する際、自分の個人的な経験や想いがきっかけとなってプロジェクトになることが多いのですが、このプロジェクトもそうでした。今回きっかけとなったのは、私の娘が川にゴミが捨てられているのを見て「なぜ川にゴミが捨ててあるの?」と質問してきたことです。この問いに私はうまく答えられませんでした。このことがきっかけとなり、まずは生活者の皆さんに対し気づきを与えたり、アクションを起こしたりすることはできないかと考えるようになったんです。
そこで、「地球のために」という長期的な目標のもと、ネスレ、JAXA、宇宙兄弟による共同プロジェクトに取り組むことになりました。
──ネスレとJAXA、そして宇宙兄弟は、全く異なる分野のように思えます。なぜこの3者が組むことになったのでしょう?
今回のような企業活動の本気度を伝えるには、1社では困難だと感じたためです。そこで、中長期で共に取り組むことのできるパートナーを検討しました。宇宙兄弟とは、2019年にもコーヒーの価値や良さを伝えるという別のプロジェクトで協力関係にありました。そして宇宙兄弟とJAXAには、10年以上のつながりがあります。JAXAと組むことで、当社の思いや本気度が伝えられるのではないかと考えました。
もちろんJAXA側にもメリットがなければ中長期的なプロジェクトには発展しません。JAXAでは、あまり知られていないJAXAの技術のすばらしさや、地球環境について長年にわたって見守っている、観測衛星について幅広く知ってもらいたいという課題を抱えていました。それが、「ネスカフェ」などの一般家庭で認知されているブランドをもつネスレと組むことで、JAXAがこれまでリーチできていなかった層にまで情報を届けることができると考えていただきました。これでお互いにWin-Winの関係を築くことができ、中長期で共に環境の課題に取り組んでいくことになったのです。また、単に地球環境についての情報を我々とJAXAで伝えるのではなく、分かりやすく興味を持っていただくために、宇宙兄弟のキャラクターに語り手となっていただくことで、幅広い方にリーチできると考えました。
──「#NescafeOurPlanetプロジェクト」ではすでにさまざまな成果が出ているようですね。
はい。まず第1弾として2020年4月22日のアースデイに、親子で地球環境について学ぶ特設サイト「バーチャル科学館」を開設しました。ここでは宇宙兄弟のキャラクターが、JAXAの地球観測衛星のデータを紐解き、「猛暑」「台風の脅威」「異常気象」といった環境変動についてわかりやすく説明しています。
第2弾は、2020年7月にネスレ日本公式YouTubeチャンネルで公開したYouTube番組「ネスカフェ × わくわくさんの宇宙工作教室」です。わくわくさんこと久保田雅人さんとコラボレーションし、紙の詰替容器である「ネスカフェ エコ&システムパック」の空き容器を使った工作教室をYouTubeで実施しました。
2020年11月の第3弾では、「#その行動は誰かのために」というエピソードの投稿キャンペーンとして、自分で実践している未来や誰かのためにつながる行動を投稿してもらった人に、「ネスカフェ エコ&システムパック」の一部をリサイクルした景品をプレゼントしました。景品には、宇宙兄弟の名言ノートや、絵本作家シゲタサヤカさんの『レストラン』シリーズ最新作『いえいえ、そんなことはありませんよ』などを用意しました。
そして2021年2月には第4弾として、絵本の読み聞かせ動画「#えほんでみらいをかんがえる」をネスレ日本公式YouTubeチャンネルで公開しました。これは講談社のウェブメディア『FRaU web』とのコラボレーションで、読み聞かせは寺島しのぶさん、佐々木希さん、中村仁美さん、福田萌さん、青木裕子さんに担当してもらいました。FRaUは日本で初めてSDGsに全面的に取り組んだ女性誌で、読み聞かせを通じて親子に地球環境のことを考えてもらいたいという共通の想いを持っていたことから、この企画が実現しました。
どの企画も消費者の方には、「地球環境について考えるきっかけになりました」や、「まずはマイカップ、タンブラーにしてみようと思います」などの反応をいただき、エコアクションをそっと後押しすることができたのではないかと考えています。
今後についてはまだお話しできませんが、長期プロジェクトとして取り組んでいるので、継続してプロジェクトの内容を検討中です。
──このプロジェクト以外にもネスレでは積極的にサステナビリティに取り組んでいるようですが、その他の活動についても教えてもらえますか?
サステナビリティについては全世界で取り組んでいますが、例えば国内の沖縄では、サッカー元日本代表の高原直泰さんが率いるサッカーチーム「沖縄SV(オキナワ エスファウ)」とし、名護市・琉球大学とも連携の上、沖縄で初となる大規模な国産コーヒー豆の栽培を目指す「沖縄コーヒープロジェクト」に取り組んでいます。これは、沖縄県内の耕作放棄地などを活用してコーヒー豆を栽培することで、同県における農業就業者の高齢化や後継者不足、耕作放棄地といった問題を解決し、観光以外の事業を作ることを目指しています。
また、2021年6月からはフードロス削減に向け、流通先の納品期限を超過した製品の販売に特化した「みんなが笑顔になる 食品ロス削減ボックス」という無人販売機を、みなとく株式会社と共同で全国5か所にて運用しています。
さらに、先ほどお話しした「地球のために」という長期目標の下、ネスレグループは、2025年までに、包装材料を100%リサイクル可能あるいはリユース可能にすること、バージンプラスチックの使用量を3分の1削減することを、コミットメントとして掲げています。
ただし、プラスチックが必ずしも悪ではないことも理解しなくてはなりません。包装材料にプラスチックを使用すると、製品の品質保持や流通における強度保持がしやすいといったメリットがあります。また、パッケージは製品の顔でもありますので、「食品パッケージとしての見た目」も重要です。その上で、食品飲料企業として何をするべきか検討しています。サステナビリティは非常に大切なことですが、おいしい食品や飲料をお届けするという価値を犠牲にするわけにはいけません。また、包装材料を変更することによる、コストへの影響も考える必要があります。こうした全体的なバランスを慎重に見極め、ブランドチームやパッケージチーム、生産担当チームなどと共にうまく目的を達成できるよう検討しています。
──ご自身でサステナビリティに取り組んでいることはありますか?
当たり前のことではありますが、エコバックやマイカップ、マイタンブラーは意識して使うようにしています。当社でも、数年前から社内でストローやカップなどの1回しか使用されず捨てられるプラスチックアイテムの使用を廃止しているので、皆マイカップを使っています。使い捨て容器は扱いも簡単で洗う必要もなく楽でしたが、こうした変化をポジティブに捉えるよう心がけています。というのも、やはりきちんとマグカップに入れた方が、保温力も高まりますしコーヒーの香りもしっかり感じられるのです。外出時も、出先で温かい飲み物をペットボトルで購入してもすぐに冷めてしまいますが、タンブラーに飲み物を入れておけば保温もできおいしく飲むことができます。
──アストロスケールが提唱するスペースサステナビリティについては、どのような印象をお持ちでしょうか?
アストロスケールが取り組んでいるスペースデブリの問題は、遠い未来の話ではなく、自分の身近な問題に結びついてくると感じます。スペースデブリによって自分たちの生活が脅かされる可能性もあるのですから。私は地球上でも宇宙でも、未来の子どもたちに負の遺産を残さないようにしなくてはならないと考えています。ですので、スペースサステナビリティの想いに共感しています。宇宙の中で地球は本当にすばらしく、まさに青い奇跡の星だと思いますし、当社がJAXAや宇宙兄弟と協力しているように、さまざまな分野のパートナーと協力して提唱することで、この輪が広まっていくことを願っています。
創業時から企業全体でサステナビリティに取り組んでいるネスレでは、企業のパーパスを軸として、自然とサステナビリティを事業の中に組み入れていました。そこで新たに「#NescafeOurPlanetプロジェクト」を立ち上げた吉永氏が、スペースサステナビリティにも共感し、地球だけでなく宇宙全体の持続可能性に取り組むべきだと考えていることに心強さを感じます。
吉永氏に自らのプロジェクトを実現させた秘訣を聞くと、「小さなことでも実際にアクションを起こすこと。そして強い想いを持ち続け、その想いを伝え、それに対するフィードバックにひとつずつ対応していくこと」という言葉が返ってきました。新たなチャレンジに挑むすべての人に響く言葉ですが、アストロスケールのスペースサステナビリティへの取り組みも、吉永氏の言葉からヒントを得たような気がします。
プロフィール:吉永 祐太氏
ネスレ日本株式会社 飲料事業本部 レギュラーソリュブルコーヒー&RTDビジネス部 ユニットマネジャー
2009年ネスレ日本入社。入社後、営業本部 東京支社に配属。東京、山梨エリアで営業、東京支社で営業企画を務めた後、2016年飲料事業本部に異動し、「ネスカフェ エクセラ」、「ネスカフェ ゴールドブレンド」、「ネスカフェ 香味焙煎」などの製品担当を務めた後、 2022年1月より現職。「ネスカフェ ボトルコーヒー」「ネスカフェ プラントベースラテシリーズ」などの飲料、「ネスレ ミロ」などの製品を担当するユニットのマネジャーを務めている。
ネスレ日本について
社名: ネスレ日本株式会社
設立: 1933年6月
代表: 代表取締役社長兼CEO 深谷 龍彦
事業内容:飲料、食料品、菓子、ペットフード等の製造・販売